天の神様にも内緒の 笹の葉陰で

      *腐設定へ雪崩れ込みそうな代物です。
       自己判断でお読みください。


     7.5 (←おいおい)



この梅雨の間、西の方では割といい日和が多かったそうで、
それでも今宵からは
梅雨前線の北上による真っ当な梅雨の雨が
数日ほどに渡ってしとしとと降り始めるのだとか。

 「地上にいるのに、そういうのが判る時代なんだねぇ。」

天界から見守っていた自分たちならいざ知らず、
人間には 見渡す限りという範囲しか、肉眼では判らぬ空模様。
風の感触や雲の形、夕空の色合いで察していたレベルから、
暦との併用、例年の観測記録で統計的な予測が出来るようになり。
湿気や気圧といった色々を観測することで、天候の仕組みを割り出しながら、
その予測をどんどんと精密にしていったその末に、
今や、気象衛星なんてものを空高く飛ばして
天空からも観測しようという発展ぶりで。

 「気象関係の神様たちは、
  いよいよ辻褄が合わないことが出来なくなったねぇ。」

 「そういう順番でもないとは思うけれどもね。」

相変わらずにツッコミどころの多い言いようをするイエスが、
西から下り坂のはずだけど、こちらでは晴れ間が見えそうな夜空を見上げ、
ちょっぴり草いきれの香もする清かな夜風を、すんと吸い込んで見せる。

 「昼間はちょっぴり蒸したのに、
  陽が落ちるとすごく涼しいねぇ。」

腰高窓の桟を腰掛け代わりにし、
外気に触れつつ、気持ちのいい宵だと涼んでおいでだが、

 「そろそろ入った方がいいよ。」

玄関の戸締まりをして来たブッダが、
ここいらでも早くも蚊が出るって松田さんが言ってたよと、
暗に網戸を閉めてと言い添えれば、

 「はぁい。」

目許を細めてにこやかに笑いつつ、それは良いお返事をし、
立ち上がったそのまま からからと軽い音させて網戸を閉める。
窓は薄めに残して閉じてから、
シャッとカーテンを引いてしまうと、
室内は一瞬 蓋されたような空間になるものの。
耳を澄ませば、そう遠くもないどこかから
テレビからだろう音楽つきの声が微かに聞こえるし、
締め切ってはない窓の外からも、
実は静まり返ってなどおらず、
ちょっぴりざわりとした 夜なりの活気をひそませた夜気の中、
夾竹桃の生け垣がざわざわ揺さぶられている気配が聞こえるしと、
生き生きとした いろいろな息づきが感じられ。

 「電気消すよ〜。」
 「うん。」

わさわさという木綿の衣擦れの音させて、
座り込んだ自分の布団へ、横になりかかってるイエスなの、
見やりながらも 中途で電灯の紐を引けば。

 「あー、不意打ち〜っ。」

何すんのよという響きの、そんな文句を言いつつも、
その声は何とも楽しげで。
ぱすんと背中を布団へ埋めた音がしたから、
やっぱり夏掛けは とうに整え終えていたようで。
そんなこったろうと思ったよと、
ブッダも くすくす笑いつつ、自分の布団へ座り込む。
枕の位置を整えてから横になり、
先日から使い始めていた、
薄い綿入りの布団を肩まで引き上げたところで、

 「…ぶ〜っだvv」

やっぱり楽しそうな声音のまんま、
自分の名を それはそれは甘く呼ぶイエスであり。

  こっちへおいで、と

そんな含みを持つ呼びかけは、
子供が甘えているような、
どこか無邪気な呼び方なのに。

 「〜〜〜。/////////」

それを耳にすると、何故だろか、
隠し切れない含羞みが込み上げてしまい。
よし来たとの すぐには応じられないブッダでもあって。
墨を流したようなというほどの、漆黒の闇の中でもなし、
押し入れの襖や、布団へとかけたカバーの白が、
ちょっぴりくすみつつも見て取れる視野の中。
布団の襟元へ頬を埋めているブッダには、
お互いの顔までは さすがに見えないながら、

  おいでよ ほら
  抱きしめてあげるから、と

そうと呼ばれている気がしてしまい、
そうと思えてしまう自分が恥ずかしい。
自惚れを恥じ入るというのではなくて、
自分がどれほどのことイエスを好きかを
こんな刹那の反応へさえ思い知らされてしまうのが、
どうにも恥ずかしくて堪らなく。

  そうは言っても

 「ブッダ?」

重ねて呼ばれてはもう、
聞こえない振りも通じない。
イエスが待ってくれないというのではなくて、

 「…。/////」

知らん顔をして焦らすというよな、
いわゆる“手管”を持ち出せるほどには、
まだまだ余裕というものがない身のブッダだから。
含羞みに熱くなった頬に
気づいてない振りで通しつつ。
ひじで支えて上体をやや起こすと、
冬場に比すればそれは軽い掛け布の下を
ちょんちょんと小刻みに移動してゆけば。
早々とこちらへ身を向けていたイエスが待ち受けており、

 「やっと来たvv」

あと拳二つほどを残し、
待ち切れなかったのと言わんばかり、
腕を延べて来、自身も身を寄せてくる歓待ぶりで。

 「………。//////」

手や腕の肌のやや強い感触や、
そこへと力を込める筋骨から滲む、
思わぬ頼もしさを感じ取り。
そこへも沸き上がる新たな含羞みの熱、
ブッダが赤面しつつ自覚しておれば。
それを追いかけるようにして、
少し温められたバラの香りがふわりと寄せて来る。

 不思議だよね。
 な、何が?

間近に響く声は低くて、
けれど、たいそうまろやかに甘く。

 「だってさ、
  今日一日一緒にいたのに まだ足りない。」

 「あ…。////////」

私ってこんなに欲張りだったんだと、
参ったなぁなんて くつくつと喉を鳴らし、
イエスが小さく微笑う響きが。
どうしてだろうか、途轍もなく蠱惑的に届いてしまい。
ますますのこと、
ブッダの頬に籠もる熱を上げてやまない。
確かに今日は、どちらかにだけという御用もなく、
片やだけが 出掛けたり居残ったりするような場面はなかった。
イエスがPCを立ち上げてブログをチェックしていたり、
ブッダが売り出し品の新タマネギ、
どっちが新鮮かなんて見比べていた間合いこそあったが。
ふと顔を上げ、相手を探せば、
他の誰かが視野をよぎる暇間なぞ挟まずのこと、
なぁに?とやさしく訊いてくれる眼差しが待っててくれて。
それが嬉しいと
素直に口元をお髭ごと弧にして微笑うイエスに比べ、
わあと ちょっぴりたじろいだり、
含羞みが過ぎて面映ゆくなった自分は
まだまだだよなぁなんて思っておれば。
そんな横顔にさえ、
愛おしいという眼差しをそそいでくれるのだもの。

 “ホント、
  どちらが慈愛の人なんだか だものね。//////”

どうしても痩せているという印象が立つ人なものの、
こうやって凭れかかれば、
かっちりした肩幅は何とも頼もしいし。
尋の長い腕にすっぽりとくるまれる懐ろは、
それはそれは居心地がよくて。

 “気持ちいいなぁ。//////”

挨拶の延長のようにハグし合うよな、
気安く相手へ触れ合う習慣なぞ そもそもなく。
肩を見せる着付けをすることが
ささやかだが 相手への敬愛の印とするような、
そんなまで慎み深い戒律の中に身を置いていた
仏門開祖 釈迦牟尼様にしてみれば。
相手の胸元、懐ろのうちなんていう
奥深いところへまで寄り添い、
こんな風に頬をつけるほど身を寄せるなんて。
行為としては微笑ましいと思っていても、
まさか自身がそこへと身を置くなんて
思ってみたことすらなかったのにね。
シャツ越しのさらりとした温みがやさしいし、
ほのかに立つオレンジの匂いに気がつけば、

 「…ぶっだ。」

やわらかな声がして、頬にそろりと手が触れる。
なぁにと顔を上げるのもどかしげ、
親指の腹で口許を撫でられて。
その熱の生々しさから、
どこか しどけなくも妖冶な末を暗示させられ、

 “あ…。////”

肌にじんわりとした熱が籠もり出すの、
隠しようもないのが恥ずかしい。
少しは暗さに慣れた眸も、
まさかにそこまでは拾えなかろに、

 「…怖い?」

狼狽して揺れる、深瑠璃の瞳を案じたように、
柔らかな声が掛けられて。

 「〜〜〜。///////」

ああ、違うの違うと、
言ったところで気遣われるだけ。
少しだけ進展した二人は、だけれど、
時々、イエスが“無理強いしてない?”と
憂慮するよな場面も増えており。

 微妙な齟齬を、でも
 愛睦に関わることなだけに、
 不慣れなブッダからは
 上手に伝えられないのが何とももどかしく。

そうじゃないのと切なく思い、
潤みの強い眸をたわめ、
くぅん…という鼻声がこぼれかけたものの、

 “………あ。//////”

かすかにかすかに背中に感じたのは、
ツンツンとシャツを引かれる感触だ。
ブッダをくるりとくるみ込んだそのまま、
長い腕の余った先を背中で遊ばせていたイエスが、
こそりとのさりげなく、
何かを催促していると気がついて。

 “何だかなぁ…。/////”

陽の下でも 赤裸々に、
キミを愛しているよと、
それは臆面もなく言い切れちゃう人なのにね。
時折 思わぬところで含羞むんだもの、
そんなの反則だよねという苦笑が浮かぶが、
彼なりの一大勇気を 気づかぬ振りもなかろうこと。

 「…うん。」

頬を寄せてた胸元で、こくりと深々頷いてから。
自分が着ているTシャツの襟ぐりを軽く引くと、
そのまま頭をもぐらせてゆき、
シャツを上へとたくし上げてゆくのがブッダ風の脱ぎ方で。

 「……。///////」

自分の懐ろの中で、
ごそもそ身じろぎする愛しい人を、
ドキドキしもって見下ろしていたイエスだが。

 “え…?/////////”

背中側の生地を引き上げ、
シャツから頭を抜いたその間合い。
ふわりとアンズの香りが広がり、
シャツの下から、さらさら・はさりと
深色の豊かな髪があふれ出す。
あのね、甘えたいのという
声に出せない気持ちの現れなんだよと、
そんな風に言われていた
瑞々しくもつややかな髪の奔流に。

 我慢なんかしてない、と
 甘えたいし甘えてほしい、と

ブッダの側の気持ちが
それはやわらかに たおやかに。
彼自身という麗しい存在を
縁取ってくるみ込むように、
形となって現れたようなもの。
そおと手を延べ、
さらさらとすべり落ちてく美麗な髪を
指先で堪能しつつ、

 「ブッダ。」

その手を次には愛しき人の頬に添えて。
内へ光を封じているかのような聖なる肌に眸を細めると、
かすかに震える吐息を見つけ、
それを辿るよにして唇を伏せる。

 「…ん…。//////」

くちくちと喰まれる蹂躙の感触も、
それを内緒にしきれぬよう、
微かに水音が立つのも恥ずかしく。
けれど それ以上に、

 キミがほしい、を

イエスから存分に行動で示されていることが、
嬉しくてたまらないブッダであり。

 “ああ、温かいね。”

シャツを脱いであらわれた、
愛しい人の素肌の温みとなめらかさと。
尊い君が今だけ自分だけのものになってくれる
そんな至上の至福に酔いしれるイエスであり。


 お互いへの想いを甘く甘く堪能しながら、
 聖なるお二人、初夏の宵へと静かに泳ぎ出す…。









       お題 8 『すっぽりくるまる』の その先編



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  *何ですか、早くも台風が北上しつつあるそうで。
   大丈夫でしょか、七夕の空模様。

  *ちょいと間が空いてすいません。
   こっちは蒸し暑いばっかだったので、
   甘いの書くのはなかなかの苦行でした。

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